2010年6月28日月曜日

かがやく街 [Helpless]

暑くも寒くも快適でもない昼下がり、高層ビルの裏の「けやき坂」というペラペラな名前の坂道をテケテケと下っていたらそんな気分になって、ツタヤで[Helpless]を借りてきた。1996年に公開された青山真治監督の劇場デビュー作。
何気ない黄ばんだ淡い風景の中から忽然と人間の業が湧いて吹き出す懐かしい残酷が充分に堪能できる快適な映画である。特筆したいのは止血ガーゼのように画面の裏側にまで気がかりが染み込んでいる田村正毅カメラマンの漠然とした映像感覚だ。たどたどしく洗練された無遠慮が実に奥ゆかしい。構図はタテにもヨコにも開放されているのに、幻想に向かうというよりもリアルを一点に固定している。甘美なメルヘンに括らせない尖った覚悟がフィルムの粒子にマブリついてチカチカと明滅した。大切なコトは知らないうちに流れ出してしまうものだから、しっかりと見つめたいのならば一旦流れを堰き止めておいた方がよい。でもコンクリートや鉄のような固い材質でダムをつくるのは無粋だと思う。例えば[Helpless]では、喫茶店の駐車場でバスケットケースの中からウサギのQちゃんが逃げ出した時に、出来事の、流れが、シュっと止まって物語がムクムクとカタチを成して現れるような、日常の異常の柔らかな突起物を見逃さないておく。頭の弱い妹がQちゃんを追ってアタフタしているのにヤクザの兄さんは拳銃を握って震えている。その時、浅野忠信は近距離傍観者だった。無駄の使い方が巧妙だから淺野がだるそうに歩いているだけでも街は無味乾燥になる。無味乾燥な街は淺野だけの街じゃないボクたちの街でもある、というようなことをメリメリと感じながらボクは青山真治監督の(田村正毅カメラマンの)映画を観るのだった。

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