2010年6月20日日曜日

見得をキル [欲望という名の電車]

遊女のような、はだけた着物の中森明菜がカラスのような妖艶な黒髪で [Desire]を歌いあげたのは1986年だった。「まっさかさまに墜ちて Desire 炎のように燃えて Desire」(作詞 阿木曜子 作曲 鈴木キサプロー) Desireには情熱という補足がついて[Desire -情熱-]が正規のタイトルのようだが、Desireで辞書を引けばその言葉のニュアンス(意味)は情熱よりも欲望であることがわかる。歌う明菜のマナザシもそう訴えていた。(ここで)欲望とは何か、もちろん性欲である(とボクは解釈する)。性欲はイノチの源だからとても大切なのだ。映画[欲望という名の電車](1952年公開)も原題は[A Streetcar Named Desire]でDesireという名前の路面電車という意味だ。劇中でも主人公ブランチ(ヴィヴィアン・リー)がDesire 922というネームプレートの路面電車に乗ってニューオリンズのダウンタウンに到着する。欲望という名前の電車に乗ってそのオンナは登場したのだ。麗女ブランチは妹の貧困アパートを訪ねてきたのだけど、対峙する相手は妹の夫のスタンレーでそれはマーロン・ブランドだから彼の怒鳴り声にも彼女の股間はジンジン疼くのだった。三十路に達したミス・ブランチは夫に自殺され農園も抵当に押さえられ教職も追われホウホウノテイでここにやって来たのだが、彼女の心は(既に)病んでいた。エリア・カザン監督は麗女ブランチ(ヴィヴィアン・リー)が少しずつ少しずつ壊れていくサマを映画の見せ場とした。汚れていく純粋を劇的に表現した。対峙するマーロン・ブランドは身なりは汚いが純朴が輝いている。工場労働で汗まみれのたくましい肉体と乱暴だが率直な言動に生きるチカラが漲っていた。(居そうろうの)ミス・ブランチは経済的にも精神的にも追い込まれて墜ちていく。キッチンで興じる男たちのポーカー賭博にもアケッピロゲな隣人の夫婦ゲンカにも覇気があって下町人情の素顔なのに、安物ドレスで身をくねらせるミス・ブランチの「ざあます言葉」は虚飾だった。誰かがこんなセリフを吐いた「欲望の反対は死です」。ミス・ブランチの偽装性欲が映画のテーマだった。

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