2010年6月29日火曜日

エイガの小説 [かもめ食堂]

小説[かもめ食堂](群ようこ/幻冬舎)は「本書は初めて映画のために書き下ろした作品」と(著者プロフィールの欄に)書いてあります。映画のために書き下ろした作品とはなんぞやという疑問は湧きますが別にいいのです。インターネットなどで調べれば裏話やいきさつもある程度はわかるのでしょうが別にいいのです。小説として読んでみました。(映画を観ているボクが読みますと)映画のストーリーをなぞっているような感覚になります。カットやシーンが頭の中に浮かび動き始めます。やはりサチエはフィンランド人に(執拗に)おにぎりを勧めていました。採録のシナリオではありませんから細部が違っていたり詳しく説明されていたり、観たことのない章立てもあります。映画に登場したシーンが小説には無かったりします。そういう分析をしてしまうので、いつもの読書感覚とは違います。軽妙で簡明で聡明で実直で辛辣な文体なのでボクの好きなタイプの小説です。ですが映画と小説のテーマが見事に統一されているので発見的興奮が衰え、読み進めていく意欲は半減します。グイグイ引かれるではなく、ペタペタ押し込みながら読みました。映画の分厚いプログラムを1238円で買ったと思えば充実した代物です。映画は観ずにこの小説だけを読む人もいるでしょうから価値はそれぞれです。群ようこさんという作家に対してネガティブな印象はありません。他の作品も読んでみたいと思います。ボクは映画と小説を連動させたこのほどの商売のシカケに翻弄されただけです。主人公サチエの父親は武道家で、口癖は「人生すべて修行」です。
牧野伊三夫画伯の挿絵は極めてシンプルに小説世界を象徴しながらも独立していました。表紙の[かもめ]は静かにハバタいています

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