2010年6月26日土曜日

アカイ希望 [街のあかり]

都市の夜景だけど別に活気があるわけでもない。広い地下道だけど閑散としている。長いエスカレータをゆっくりのぼっていく主人公は広い画面の中で一人だ。制服の青年コイスティネンはビルの警備員だけど仕事にも無気力で仲間とも打ち解けることができない。打ち解けたいと思っているのかどうかもわからない。でも、無気力で孤立した男にだって一寸のタマシイはある(と思ってボクはこの映画を見続けた)。映画[街のあかり](2007年日本公開)はアキ・カウリスマキ監督の(例の)不条理喜劇である。喜劇だけど笑えない(例の)アレである。パブで飲んでいても、まわりの男たちはみんな背が高い。着飾った女からはサゲスマれる。唯一、荒涼たる空地のソーセージ屋台のそっけない女だけが話し相手だった。コイスティネンは起業セミナーに参加してみるが、やっつけの講義で冴えない受講者の集まりだった。オロカモノは黒幕に利用される。美人という設定の色白の女に手玉にとられたコイスティネンは宝石店の暗証番号を教えてしまい、簡単に眠らされて鍵束を盗られる。美人という設定の女は美人ではないが影があって魅力的である。だからコイスティネンは捕まっても口を割らなかった。美人という設定の女をかばって単独犯行を自供して懲役二年を受ける。騙された、と言いたくなかったのかもしれない。コイスティネンの愚かなプライド。「あいつは犬のように忠実でバカで女々しい男さ」これはコイスティネンをまんまと利用した黒幕が言った無感情なセリフだ
優雅な暮らしのマフィアっぽい黒幕の部屋の壁は赤かった。コイスティネンのくたびれ愛車も赤いクーペだ。空瓶に投げ込まれた赤いカーネーションは何度も出てくる。アキ・カウリスマキの色への気遣いは尋常ではない。衣装にも小物にも遠景にも色的神経が行き届いている。ガチャリと決まった完璧な構図はアキの堅牢な意志を示している。
刑務所では静かな時間が流れる。コイスティネンは黙って考えていた。出所して皿洗いを始めるが、黒幕に前科をチクられて即刻クビになる。やり直しの人生もウマク行かない。黒幕にナイフを向けるが返り討ちに会う。リンチの末に波止場に投げ出されたコイスティネンにそっと手をさしのべるのはソーセージ屋台の女だった。最後はこの女しかいないだろうなという登場の仕方だったので納得はいく。コイスティネンは女の柔らかな手を握り返して、その手のアップで映画は終わる。
ラジカルな情景描写は硬くて冷たくて強ばっているけど既視感がある。今は昔のようで斬新で懐かしくて流れ続けていく。コイスティネン、恋してね。

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