2010年6月25日金曜日

成功の性交 [人のセックスを笑うな]

ただならぬ覚悟というものを感じたし、山崎ナオコーラの原作小説もさっそく読んでみようと思わせた。
ポッカリと空の面積が大きい景色はモノオモイを起こしやすいからアート的を志向する場合などは適した構図だと思う。
井口奈己監督の[人のセックスを笑うな](2008年公開)のセックスは性交そのものではなくて恋心を表している。ペチャペチャと音を立てていつまでもキスを続けるのをじっと見ているボクの感情は羨ましさだった。最近ああいうペチャペチャ音を立てたキスをしていないなと感慨に耽る。
群馬の桐生の中途半端な農村風景は日本の典型だと思うし、ウソっぽい美術大学の授業にもちゃんと出席する訓練が社会生活なのだと思う。些細なエピソードかテーマをズキュンと突いてしまう繊細で大胆な手法を実践した作品のようだ。いわゆる長マワシの撮影方法もナチュラルというより即興の滑稽が人間関係の距離を意識させた。ださださのダッフルコートをこれ見よがしに着ているし、野暮ったいマフラーを毎日巻いているし、「寒い寒い」と(あえて)台詞で言うし、冬という季節を強調したからキッパリとした緊張感が作品の全体に漲っていた。それは製作スタッフたちの、丁寧で細やかな目配りが充分に行き届いていることの表れのように感じられて(感じの良さが)強く印象に残る。ことごとくいやらしくないのだ。
失敗を怖れる当然の心境は多くの新人作品から感じられることだが、井口奈己監督の[人のセックスを笑うな]から感じられる心境は成功を怖れている。あながち成功など望まぬ方がよいのかもしれないという覚悟が隠しきれずに漏れだしていた、と思う。開き直りのススメでもあるかな。

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