2010年7月10日土曜日

呼吸する闇 [殯(もがり)の森]

[(もがり)の森]2007年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した作品。河瀬直美監督は10年前にも[萌の朱雀]でカンヌ映画祭新人監督賞を受賞している。両作とも河瀬監督の地元奈良が舞台だ。
[殯(もがり)の森]は、不安定な手持ち撮影や素人っポイ演技だからリアルなのではないな。些細なことを感受する孤独な高齢者を題材にしているから現代的だというのでもないな。奈良の農村の日常風景はそれだけで存分に既視感だし、気持ちの中を風が吹き渡っていくのは凡庸ゆえの無抵抗さだと思う。ボクは安穏と緊迫の混成気分のまま映画を見続けたよ。
深い森だと人は方向を見失う。目的のない時間の中では天国と地獄を同時に体験する。生きていると思えるのは生きているからでしょ、と気の利いた言葉をザワザワ囁くのは森の熊笹だった。転んで割ってしまったスイカの紅い熟れた実の甘い果汁で肌がヌヌッと濡れる。色気が女だ。
人生は(やっぱり)一回キリなのだろうか、転生はあるのだろうか。雨上がりの闇は寒いけど、体温だけがあたたかい。生きているウチにできること。体温が体温をあたためる。
森では懐かしい死者にも出会い、少しの間だけ一緒に踊る。でも、もういいだろう、さあ、帰ろう。陽のあたる大樹を見あげれば安堵する。素手で土を掘れば充実する。天高くヘリコプターが飛んでいく。現実のお出迎えだ。現実の中で人は死ぬ。安らかに悲しむ。たくさん泣けばいいんだ。

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