2010年7月9日金曜日

ゼンニンなおもて包丁を研ぐ [転々]

うしろ髪をフサッとのばした自称殺人犯の無気力中年が、あてもなく歩きながら告白をする。変形リーゼントの巨頭青年は、態度は悪いがキチンと話を聞いてあげる。珍道中なロードムービー、三木聡監督の[転々](2007年公開)は、別に高級でもない見慣れた材料に塩と胡椒と砂糖を振りかけて味噌を塗りたくって味を濃くしてエイヤっと手荒に盛りつけてさあ召し上がれと出された大皿郷土料理のように、好みにさえ合えばとても美味しくて病みつきになる。みかけほど脂っこくはない。意外と素材は厳選されているようで噛み続けるとふくよかな味わいがお口いっぱいに広がる。
畳で殴られたら意外と痛いとか、時計店の生計を気にしちゃいけないとか、為になる情報も提供してもらえる。
場末のスナックのママは昭和仕立ての立派な木造家屋に暮らしていて小泉今日子である。昔のよしみのうしろ髪殺人犯が三浦友和で、同行の変形リーゼント巨頭青年のオダギリジョーと一緒にママの家に泊めてもらう。ネットリと濃いキャラクターの三人が噛み合わない会話をポカポカと平気で続ける乾いた展開がリアルだ。現実の会話ってほとんど噛み合っていないでしょ。現実の人間関係ってほとんど噛み合っていないでしょ。更に遠縁のぶっ壊れたギャルが闖入して、会話のズレが拡張して摩擦熱が急上昇する。卓袱台的なカオス表現である。
物語が沸騰しそうなところでポキッと終わる[転々]の結末は粋である。イナセである。テヤンデエである。

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